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ここはカセルスというメゼルン大陸に二つしかない村の一つの離れにある砂浜。
そこで彼─カレル・メイザン・フィルンという名と、『流るる強者』という二つ名の持ち主がしゃがみながら海を眺めていた。
カレルがそう呼ばれるようになったのは彼がしてきた行いがよかったからだった。だが、彼は「別に、助けたいと思っただけだ」などと理由のようなものを付けては、その場を颯爽と抜け出していくのであった。
それから、有名な人にでも付けられたのか、彼はその二つ名と共に大きな痣を持つ男として次第に広まっていった。
そんな二つ名を聞き付けたのか彼へと挑戦してくる者は絶え間なく居た。
そうして彼は今日も又一日が始まろうとしていた…
「ふぅー…やっぱ海はいい…」
「よう…アンタが『流るる強者』かい?」
彼の後ろから聞き覚えのない声が聞こえてきたのと同時に、二つの影が彼の体を覆い被さった。
「また 来たのか…チッ…」
顔を向けないまま二つの影に聞いた。
「俺等と相手…っ!!!?」
一歩前に出るようにして立っていた片方の人が話し終える前に彼はその隙を突いて後ろに回り込み、相手の首筋へと未だ鞘から出ていない剣を首に押し当てていた。
「これで懲りたか?」
普段より低い声でそう言い放つと、剣を押し当てられている男の蒼白そうな顔を見て、剣から解放した。と同時に二人は敵わないと知って声を出せず、慌てたように走り去って行った。
「チッ…つまらん」
彼─基、カレルは剣を担ぐと元居た場所へと戻ろうとしたが、自分の後ろを素通りしていこうとするある二人組の噂話が耳に入ると、思わず足を止めて聞き入った。
「なぁ 聞いたか?今じゃ存在しない筈の『流地(カイヌ)』とか名乗る奴が変な石持って騒いでいるって噂をよ。」
「嗚呼。それって確かカセルスで騒ぎ立ててるっていう男の事だよな…。しかも、訳の分からない痣みたいなヤツを見せ回ってるっていう噂だぜ。」
「そうそう。終いにゃー、誰か探してるって話だしな。」
「まっ俺達には関係ねぇーけどな。」
そこまで聞くと何かを察したのかカレルは足早にその場を後にした。
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