月明かりの下で紅きは揺れて

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むっ、と押し黙る旋利を呆れた様子で見て、                         「……いい加減素直になったらどうなの?           もう“あれ”から何年も経つんだし、自分の心に正直になりなさいな。」                            “あれ”とは旋利の過去の事、それも今の旋利になった上で重要な要素の一つだ。                      「……分かっちゃいるさ、けどな…」                            麻由理は確かに見た、一瞬旋利の眼に憎悪の光が宿ったのを。                 「“あれ”は忘れる事ができんし忘れるつもりもない、心の奥底で俺は…」                          ただ一呼吸おいて。                     「あいつを殺したがっている、この憎しみはたぶん一生消えんよ。」                             矛盾した奴だよ俺は、と付け足して、どこからか取り出した酒瓶を掴み、杯の中に酒を注いで一気に煽る。                           どことなく悲しそうな表情を見せながら。
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