序章

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「…ク…ソ……!」 闇の中、小さく聞こえた悪態に青年は我に返った。 目の前の男の胸ぐらから手を離せば、相手は膝から地面に崩れ落ちる。男の顔が地面に落ちる前に、青年の堅いブーツのつま先が男の顎を蹴り付けた。 白目をむいて昇天した男には目もくれず、青年は左手の拳銃をベルトの後ろ腰についたホルダーに戻す。 銃身の長い重量感のあるその銃は、闇の中で尚鈍い黒の光と共に威圧を放っていた。 木々が鬱蒼と生い茂る静かな森には、20人近い男達が物言わぬ姿で地に伏せていた。浅く呼吸に背を上下させる者もあったが、その大半が亡骸であることは明らかだった。 毛足の長い真っ黒なテンガロンハットを目元深く押さえつけると、青年はジャケットの胸ポケットからタバコを取り出し古びたジッポで火を灯す。 青年の深い紫色の瞳が炎の不規則な明かりに揺れ、ユラユラときらめいた。 「…噂、通…りの…化け物…だな…!シェイル・レノイス…!」 肺を煙で満たし溜め息と共に夜空に吐き出せば、闇の奥から聞こえてくる苦しげな声。シェイルと呼ばれた青年は別段驚いた様子もなく、切れ長の涼しげな瞳をそちらに移した。  
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