55人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじさん!お願い!公園に帰りたい!怖いよ!」
私は溜め息をつき困ったフリをしてから、操舵席に座る土星人のグレータイプDに右手を握り親指だけ立てて、合図を送った。またこんど、獅子座流星群に向かってチキンレースでもしようぜ。
「早く!お願いだよおじさん!UFOなんかに乗りたくない!」
「わかったよ。地上に戻ろう」
ベンチの足はゆっくりと出力を弱めていき、雲を通り抜けて地上に降り立った。ベンチ周囲の木々は焼け焦げ、『消火栓あります』という細長い鉄柱はぐにゃりと曲がっていた。
「ぐぼぁ!ちっちがべまにゅうべ!ちょまらはがんだぼ、がぼ!がぼ!ぐぁぼ!」
公園の住人は鼻だけでなく目や耳からも血を出していて、犬ほどの大きさで四つん這いになりゆっくりと近寄ってきた。
「なんかあの人、さっきより怖くなってるよ」
「どうやら怒りすぎて日本語を忘れたみたいだね」
公園の住人が男の子に飛びかかろうとしたので私は「ぐぶぁは!!」と威嚇した。公園の住人は頭を下げてこちらをジッと見た後、怯えたように耳を下げて走っていった。
「おじさん、すごい!」
「いやあそれほどでも。じゃあ冒険話の続きをしようかな。三年前の冬、私は公園で」
「ちょっと待って!待って待って待って!」
男の子は両手を広げ、私を制した。
「どうしたの?」
「おじさんの冒険話は、僕には過酷すぎるよ!」
「なるほど。確かにそうかもしれない」といってから私はおでこを撫でて頭を掻き悩むフリをした。次に「よし!」と両手をパチんとあわせ、何か答えが出たフリをした。
「どうしたの?」
「冒険話を紙に書いて君に渡すってのはどう?読むのなら安全だろうしね」
「うん!それがいい!」
男の子の笑顔は太陽みたいだった。それを直視した私は、脳裏に笑顔の残像が残った。
「このベンチの上に置いておくから、一時間後に取りにおいで」
「うん、わかったよ。一時間後だね」
男の子は手を振りながら駆けていった。さて、男の子が去った後、私は土星人のグレータイプDに電話した。いつも私の生活を覗き見している奴に、私の冒険話を書いてもらうのだ。
最初のコメントを投稿しよう!