座頭鯨は電報中

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「おじさん!お願い!公園に帰りたい!怖いよ!」  私は溜め息をつき困ったフリをしてから、操舵席に座る土星人のグレータイプDに右手を握り親指だけ立てて、合図を送った。またこんど、獅子座流星群に向かってチキンレースでもしようぜ。 「早く!お願いだよおじさん!UFOなんかに乗りたくない!」 「わかったよ。地上に戻ろう」  ベンチの足はゆっくりと出力を弱めていき、雲を通り抜けて地上に降り立った。ベンチ周囲の木々は焼け焦げ、『消火栓あります』という細長い鉄柱はぐにゃりと曲がっていた。 「ぐぼぁ!ちっちがべまにゅうべ!ちょまらはがんだぼ、がぼ!がぼ!ぐぁぼ!」  公園の住人は鼻だけでなく目や耳からも血を出していて、犬ほどの大きさで四つん這いになりゆっくりと近寄ってきた。 「なんかあの人、さっきより怖くなってるよ」 「どうやら怒りすぎて日本語を忘れたみたいだね」  公園の住人が男の子に飛びかかろうとしたので私は「ぐぶぁは!!」と威嚇した。公園の住人は頭を下げてこちらをジッと見た後、怯えたように耳を下げて走っていった。 「おじさん、すごい!」 「いやあそれほどでも。じゃあ冒険話の続きをしようかな。三年前の冬、私は公園で」 「ちょっと待って!待って待って待って!」  男の子は両手を広げ、私を制した。 「どうしたの?」 「おじさんの冒険話は、僕には過酷すぎるよ!」 「なるほど。確かにそうかもしれない」といってから私はおでこを撫でて頭を掻き悩むフリをした。次に「よし!」と両手をパチんとあわせ、何か答えが出たフリをした。 「どうしたの?」 「冒険話を紙に書いて君に渡すってのはどう?読むのなら安全だろうしね」 「うん!それがいい!」  男の子の笑顔は太陽みたいだった。それを直視した私は、脳裏に笑顔の残像が残った。 「このベンチの上に置いておくから、一時間後に取りにおいで」 「うん、わかったよ。一時間後だね」  男の子は手を振りながら駆けていった。さて、男の子が去った後、私は土星人のグレータイプDに電話した。いつも私の生活を覗き見している奴に、私の冒険話を書いてもらうのだ。
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