終わる夏に花を咲かせる

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窓の外から聞こえる虫の声とノートの上をシャーペンから少し出た芯が滑る軽やかな音以外、何も聞こえなかった。 そろそろ日付が変わろうとしている。 にも関わらず誰も勉強を切り上げようとしない。 勉強ができなかった時間を取り返そうとしているのかもしれない。 明日寝坊したら同じ事だろうに、と思うには思うのだが、やはり田原も焦りを感じてはいた。 後2ヶ月と少ししか時間はない。 合宿前はああ言ってみたものの、やはり心配だった。 「そろそろ寝る準備しようぜ」 と三倉が言ったのは、日付が変わって少し経ってからだった。 「そうだな」 と言った野々村がノートを閉じる。 「シャワーを浴びる組と布団を敷く組に分けた方が良いな」 と柏木が提案し、保が同意の声を上げた。 「じゃ、俺シャワー」 と言うが早いか松尾がタオル片手に部屋を飛び出す。 「着替えは?」 と言った高野の声は聞こえなかったらしい。 結局面白そうなので松尾はそのままにして、柏木と高野がシャワーを浴びに行った。 シャワー室にはシャワーが4つしかない。 早く寝るにはシャワーを浴びる組と布団を敷く組に分けるのに越したことはなかった。 布団をさっさと敷き、一番壁側の布団に田原はもぐり込んだ。 「俺寝るわ」 と隣で携帯電話をいじくっている保に言うと、田原は目を閉じた。 囁くような声は遠退き、体の力がふっと抜けると、何も聞こえなくなり、何も見えなくなった。 深い眠りの淵に田原は落ちていった。 寝汗で濡れた服を脱ぎ捨て、汗を吸って湿っているジーンズも蹴るようにして脱いだ。 着替えるのを忘れていたらしい。 本来ならパジャマ代わりに使うはずだった半ズボンのジャージとTシャツにタオルを持った田原はまだ暗い廊下に出た。 寝息がかすかに漏れ聞こえた。 片手に持った携帯は5時半を少し過ぎた時間を示していた。 ざっと5時間は寝た事になる。 熱めのシャワーを浴び、体を洗い頭も洗った。 顔を洗ってから、タオルで乱暴に頭を拭いた。 短めの髪はそれだけでドライヤーをかける必要がなくなる。 少し肌寒く感じられたので一度部屋に戻りジャージを長い方に変える事にした。 ついでに財布を引っ張り出し、携帯電話をバッグに放り込んだ。 シャーペンを取り出し、布団の上にノートを広げてそこに少し出かける旨を書いた。
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