終わる夏に花を咲かせる

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火を止めて、換気扇を回した。 まだ残っている味噌を見てみると、きらが浮いている事はない。 いたんでいる訳でもないし、腐っている訳でもない。 というより、発酵させている時点である程度は腐らせている。 「まあ、食べたいやつだけ食べれば良いだろ」 と松尾に言い、ゴミ箱に神社の石段に腰掛け、飲んで来た空の紅茶の缶を放り投げる。 「外れたぞ」 と言った松尾に「お前が入れとけ」と応じた。 神社を抜けると中学校がある。 早朝の学校は静かなもので、なんとなく神秘的だった。 朝の光に浮かぶ校舎は、懐かしい思い出ばかりで、しばらく校舎を眺めていたら、帰るのが遅くなっていた。 ここを出ていったのが5時半で、今は7時を少し回った時間だ。 足が少し重い。 運動不足がたたったようだ。 1月から今まで、運動といえば体育の授業以外していない。 受験とは不健康なものだ、と田原は思う。 かといって受験が無いなら運動するかといえば、しない。 「そろそろ起こすか」 と言って、松尾が部屋に向かう。 「どこ行ってたの?」 と保が皿に炊きたてのご飯を盛りながら言った。 「あっちこっち」 と応じた田原に「ふ~ん」と保が応じる。 「疲れちまったい」 と一人ごちた田原に「あっちこっちを歩けば疲れるでしょ」と保が応じた。 「それもそうか」 とそれに応じて、窓の外に目をやった。 布団を片付けなければ食事は出来ないし、朝は涼しいからクーラーは必要ない。 そういうわけで、開け放たれた窓から秋の気配が濃厚に漂う風が入って来る食堂で朝は食べる事にしていた。 午前、午後と勉強をしていると、ノートや問題集の文字が見えなくなってから部屋が暗くなったことに気づく。 固まったような腰を左右にふると、小気味良い音が鳴った。 本当は良い事ではないが、やめられない。 昼食は冷やし中華で、夜は朝の残りのご飯を温め直したのと、フライパンで焼いた肉の予定だから、余り急いで料理をする必要はない。 食べたら直ぐに花火をする。 夜になれば肌寒いし、季節外れではあったが、青春を3年間忘れてきた自覚のある田原達には、外せない行事だった。 焦げが多い肉にたっぷりとたれをつけて、ご飯を巻いて食べる。 行儀も何もないが、時には行儀を無視しないとうまい飯は食えない。 、と田原は思う。
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