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肘をついたまま付け合わせのサラダに手を延ばし、こぼれるのにかまわず千切りのキャベツやら人参やらをとった。
「お前、こういう時は行儀悪いよな」
と中学時代から田原を知る野々村が半ば呆れたような声で言った。
「こういう時だからこそだよ」
と応じてみたものの、果たしてそれが正しいのかどうか、と田原は思った。
歩美は、「そうかもね」と言ってくれた。
あちこちに食べ物をこぼしている田原と、普段の給食の時の田原の違いに少々面食らっていたようだが、面白そうに目をくりくりとさせていた記憶がある。
「さ、食べたら花火するぞ」
と松尾が言いながら立ち上がり「片付けはその後皆で協力すれば良いさ」と今夜の片付け担当の三倉が言った。
三倉と組んで片付けをする予定だった高野も同意の声をあげた。
「どうでも良いけど、早くしようぜ」
と柏木が言い、花火をとりに行った。
「あいつ、花火楽しみだったんだな」
と柏木が出て行った方をさして田原が言うと「乗り気ではなかったよな」と松尾が応じた。
「祭の直前になるとテンションが高くなるタイプか」
と三倉が悟ったように言う。
「そんなタイプあるの?」
と言った保に「そこに居るぜ」と三倉がこちらをさして言った。
「クールキャラです」
とだけ応じた田原に「クールキャラ?」とおかしそうに三倉が野菜と米粒が散らばる机を指し示した。
おそらく、田原のこの食事のマナーを許してくれるのはこの合宿に参加したメンバーと歩美ぐらいだろう。
美咲は。
許してくれるだろうか、と田原は思った。
多分、許してくれるだろう。
美咲は自分の事が好きなのだ。
自分も美咲の事が好きなのだ。
確かに歩美に比べれば、髪も茶色に染めているし、肌も化粧をしているから綺麗ではない。
歩美ほどかわいい唇でも無いし、鼻も小さい。
睫毛は化粧で長くなっていてなんだか奇怪だが、スタイルは良い。
だから、美咲に向き合えない。
つまり、歩美と美咲を無意識に比べている。
美咲は高校でもかわいいことで有名で、受験のストレスからか田原は度々クラスメイトの男子に妬まれることもあった。
ただ、歩美の思い出という色眼鏡を通すとその美咲ですら何物にもなりえない。
それほど好きなのに、それほど好きだから言葉に出来なかった、と自覚する田原は苦々しい思い出を握り潰した。
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