終わった季節を引きずるということ

2/3
前へ
/35ページ
次へ
8月も終わりに近づいた頃、合宿をしよう、と言い出したのは松尾毅だった。 ヒョロリとした体に、マッシュルームヘア、顔立ちは彫りの浅いのべら顔。 とはいえ、決して不細工ではない。 東洋的には端正な顔立ちというやつで、ジャニーズのような華やかさは無いため、キャピキャピな女子にはモテないが、ちょっとシックな感じの女子にはすこぶるモテる。 趣味は軽音楽。 好きなバンドはスピッツ。だから、マッシュルームヘアなのだ、というのは田原雄二の勝手な推測だった。 「は?」 と返した田原に続いて矢崎保も訳がわからないという顔をしている。 丸顔でちょっと出たお腹。 黙ってても笑っているように見える顔というやつで、黙ってても人が集まって来る。 あまり友人が居ないのはその性格が大人しいからで、そこがチャームポイントの一つだ。 他にも笑った時のえくぼや、ちょっとぬけてる発言など、とにかくかわいいと言われるタイプで、女子には人気がある。 が、モテるかと言われれば?マークをつけざるを得ない。 「高校生活最後の夏。学校で楽しもうじゃないか」 「夏は終わってるぞ」 と冷静に切り返した田原を無視して、松尾は言葉をつぐ。 「こんなにくそみたいに暑いのに夏は終わってないと君は言うのか?」 近寄ってくると暑苦しい。 その年の9月はそれほどに暑く、クーラーが設置されているいくつかの教室は、昼休みや放課後の生徒の避難場所だった。 ブレザーの袖をたくしあげている女子の集団を横目に「どうやって合宿するんだよ?」と尋ねてみた田原に松尾はぐっと押し黙った。 そこまでは考えていなかったらしい。 「だがな、この学校には特別滞在なんたら許可証があるのだよ」 と省略する必要のない部分を省略して松尾は勝ち誇ったように言った。 さっきの沈黙はこの為の伏線だったらしい。 「で、何人で泊まるの?」 と保がなんだか楽しそうに松尾に言った。 「今のところ3人」 と屈辱にまみれた声で松尾が応じる。 汗で細い束になった髪に隠された白い首筋が妙に艶かしい女子の集団から目を再び目を離し「さみしいなぁ。おい!」と言いながら松尾の背中を叩いた。 ブレザーの背中まで汗で濡れている。 田原は既にブレザーは更衣室に放置していた。 何もこのくそ暑いのにブレザーを着る必要はない。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加