終わる夏に花を咲かせる

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花火の片付けも明日に回した。 口が乾いたのでジュースを買う事にした田原は、騒がしい部屋から出ると、玄関に向かった。 サンダルをつっかけてから小さく伸びをした。 まだ、微かに漂う硝煙が冬の夜明けを田原に思い出させた。 暫く歩いていると保が後ろからやって来た。 「どうした?」 と言った田原に「あれを観るって」と保が応じた。 「あれ?」と尋ねた田原に「高野が持ってきた……」と保がもどかしげに言った。 性教育の時間に歩美と席が隣だった。 普段なら平気な話も、歩美が隣だとやけに気恥ずかしく、落ち着かない田原に歩美は授業中ずっとおかしそうに笑っていた。 いつかは通る道だ。 昔の本には思春期に自慰行為をしないと将来性格に欠陥が生じる可能性があると書かれていたが、それは余り信用できないと思う。 とにかく、その相手が誰であれ、家庭を持つなら一度は通る道だ。 30人と付き合って独り身なのと、1人と付き合って身を固めるのとどちらが優れているのかは知らないが、いずれにせよ同じ道を進む部分がある。 「宝探しさ」 と言った田原に「は?」と保が言った。 「いや」 と言った田原になんとなく意味を悟ったらしい保の顔が強ばった。 「戻って宝探しのコツを観てくれば?」 と言った保に「散々観た」と田原は応じた。 「感想は?」とムキになっているらしい保が言った。 「参考にはならない」 とだけ保に応じ、緩めていた足を早めた。 保が黙ってついてくる。 興味はあるが、恥ずかしいのだろう。 それは当たり前ではあるが、自分の世界にしまっておきたい。 表に出る性格こそ違うが、保と田原はよく似ている。 引っ込み思案ではにかみ屋で根は暗いし、後ろ向きなのにも関わらず自分は前向きだと演じていて、自分でも分かる程に繊細だ。 繊細さを守る為に殻を作り、殻は大きくなりすぎて他の守らなくても良いものも守ってしまう。 「思い出の話をしてやるよ」 と保の分のコーラも買いながら田原は言った。 「え?」 とコーラの缶を受け取りながら保が訳が分からないというような顔で応じた。 「楽しかった頃の思い出の話だ。多分、彼女のことを殆ど知らない誰かに話さなきゃ忘れられないと思う」 保は黙っていた。 保にとっては取るに足らない思い出話を田原はゆっくり始めた。
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