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―光って?
光はどこまで届くのかな、とかそういう話だったと思う。
お互い引っ込み思案だからどんな話をしたら良いのか分からないから取り敢えずその日の理科の授業で先生が話してた星の光は遠く何億光年も先の場所から届いているとかそういう話をしてたから、多分その話をしたんだと思う。
昼休みに、移動教室の前で2人以外は誰も居ない教室でバスの時刻表とにらめっこしながら僕は何となく『光はどこまで行くのかな?』と言った。
『見えるうちはどこまでも』
と彼女は僕の口調を真似ておどけた調子で言った。
『恋も同じなのかな』
とバスの時刻表で顔を隠すようにして続けた。
答えるのに最適な言葉を知らなかったら『多分ね』とかそこら辺の言葉ではぐらかしたと思う。
ちらりと見えた頬は真っ赤だった。
授業開始5分前のチャイムが鳴る少し前に渡辺さんの友達の水野由貴さんが僕たちを呼びに来た。
その時まで渡辺さんの顔は真っ赤でそれを見た水野さんはこっちを見て『何したの?』と嬉しそうに聞いてきた。
『別に?』
と答えた僕に『怪しい』と水野さんが顔を近づけて繰る。
きめの細かい肌が花の香と一緒に近づいて来るのは初めのうちは恥ずかしかったけど、その頃はもう慣れっこだった。
丸顔で、顎の先は丸く、目は大きかった。
鼻は小さいけど、唇は暑かった。
瞳の色は焦げ茶色で、不思議と吸い寄せられる。
『あんまりのんびりしてると、田原もらっちゃうからね』
と渡辺さんを見て水野さんは怖いことを言った。
しょっちゅう好きだと、言われてたからその頃には慣れっこだった。
途中からホントに僕のことが好きなのかどうかわからなくなることがあった。
実際、彼女は他の男子と付き合ってたこともあったくらいでね。
急いで音楽室に行きながら、まだ水野さんは渡辺さんをからかっていた。
『違うよ』とか『もうヤダ』とか言いながらも、彼女の声は笑っていた。
ちらちりと少し後ろを歩く僕を見ながら水野さんは笑っていた。
5分前のチャイムが鳴って少し経ったぐらいに音楽室には着いた。
さっさっと席に着き、持ってきた教科書とリコーダーを机に置いた。
渡辺さんの座る席をちらりと見ると彼女と目があった。
はにかむように笑った彼女を水野さんがからかい、からかわれながらこちらを見た渡辺さんはちょっと困ったような顔で笑った。
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