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その笑顔が僕は一番好きだった。
記憶の中の彼女はいつも笑っているか、ちょっと困ったような顔をしている。
不思議な事に、渡辺さんは困ったような顔をしている時が一番可愛かった。
だからって訳じゃないと思うけど、よく渡辺さんをからかっては困らせている水野さんと一緒になって渡辺さんをからかったりしてた。
でも、最終的には渡辺さんに『仲良いけど付き合ってるの?』とかからかわれて渡辺さんと一緒に顔を真っ赤にする羽目になるんだけどさ。
音楽の先生が教室に入って来ると、教室は静かになった。
渡辺さんは授業中に集中してる時の少しツンとしたような表情になった。
その顔は、ちょっと狐みたいだと僕はいつも思ってた。
悪い意味じゃないよ。
こぎつねとは違うし、女狐みたいな悪い意味でもない。
多分、渡辺さんのそういう顔を見れば分かると思うんだけど、かわいいのは困ったような顔だけど、見とれちゃうのはその狐みたいな顔だった。
単に新鮮なだけかもしれないけど、とにかく普段はかわいい渡辺さんがその時は綺麗だった。
普段は小動物っぽい彼女が、その時は大人っぽいから、狐みたいだと思っただけかもしれない。
相変わらず上手く吹けないリコーダーをピーポーとかプーヒーとか鳴らしたり、低い『ド』の音を出すべき場所で『レ』の音を出したりしながら、どうにか音楽の授業を切り抜けた。
野々村とあと1人、中学の友達の田辺優と連れだって教室に向かうことにした。
いつもは一緒に行動してるんだけど、その時は渡辺さんと修学旅行の事について話してたいたから、一緒に移動しなかったけど、普段は一緒に移動していた。
そういえば、その頃からあまり人と一緒に行動しなくなったような気がする。
なんだかんだで渡辺さんと修学旅行のことを考えるのに時間を使ってて、田辺達と一緒に行動することが少なくなった。
それだけが理由じゃなくて、よくわからんないんだけど、卒業が近くなると友達が少なくなることが多いんだ。
多分、めんどくさくなるんだろうね。
―まあ、ある意味そうかもね。
ちょっとショックだな。
―ちょっと?
何となくわかってたからさ。
―いや、そこまで落ち込まなくても。
で、話を戻すと、その日は特に何も無かった。
というか、そんな日が続いた。
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