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それもそうだな。
3日目はクラス別の行動だった。
銀閣寺と清水寺を観光して、清水坂でお土産を買った。
スピッツの『正夢』が、BGMになって流れてた。
初めて血の繋がってる人との別れを経験したのに、涙は出なかった。
修学旅行に行けるかどうかの方が心配だった。
嫌な性格なのはわかってたけど、その時にはそれしか考えられなかった。
―分かるには分かるよ。
涙も出なかった。
卒業式でも泣いた事が無いし、葬式でも泣いた事がない。
泣くのはいつも自分が辛い時だけで、誰かの為に泣いたことはないし、泣きそうになったことだってない。
―僕もそうだ。そういうもんなんじゃないの?
お前は、大学に行って何するのさ?あんな難しい所を受けなくても、他に行ける所はたくさんあるだろ?
―あそこしか学部がないからね。
何を研究する学部?
―宇宙。
僕は、何をするんだろうな。
―決めてないの?
決めてない。同じような話を渡辺さんとしたことがある。
修学旅行中に告白されるのをちょっと期待してたけど、結局そんなことはなかった。
しようとしなかったのが、ダメなんだろうけど。
修学旅行から帰って来て、3年になるまでは席は変わらなかった。
僕たちの距離も変わらなかった。
上手くいかない事が多くて、もどかしく思ってた。
相変わらず距離は縮まらないし、来年から受験勉強が始まるっていうのに、頭の回転は鈍いままで、ここに入るぐらいの成績はあるにはあったけど、まだ自信は持てなかった。
春休みの教室移動の時、たまたま廊下で一緒になって、渡辺さんの分の机を運ばせられながら、将来についてちょっと話した。
机を僕に運ばせたのも、多分彼女が他にあの時間をつくる方法を知らなかったからだろうし、僕も彼女が机を僕に渡さなかったら、自分から『持とうか?』と言ってたと思う。
今思えば、ホントに細い糸で僕たちは繋がってたんだろうね。
僕と渡辺さんだけでなくて、いつでも、どこでも僕と誰かはすぐに切れかねない細くて頼りない糸で繋がってる。
『高校に行ったらどうするの?』
と渡辺さんは突然言った。
僕は学年でも成績が上位だったから、この学校に入学するのは周知の事実だった。
渡辺さんは成績はあまり良くなかったから、ここには来れなかった。
だから、高校生になったら2人の距離は必ず離れる。
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