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でも、そんな時間も終わりを告げることになる。
もし、あの時間の中のどこかで渡辺さんに告白していたら、今とは違っていたかもしれない。
でも、結局同じことになっていたのかもしれない。
―同じことって?
振られたりとか別れたりとか。
―かもね。
知らないうちに渡辺さんとは距離をとるようになっていた。
それがカッコいいと思ってた時期もあった。
僕はそれなりに人を好きになった経験があったから平気だったけど、渡辺さんは諦めて他の人に惹かれるようになった。
その事は、3年の夏頃から知っていた。
それでも、彼女が好きだった。
でも、夏が嫌いになった。
暑くて汗を掻く上に失恋までした季節だ。
クラスの女子に『一生懸命だけど空回りしてるよね』と言われた事もあった。
それでも、好きだった。
冬になって、バレンタインデーが近付くと、急に周りが騒がしくなる。
周りの男子は色んな可能性に賭けてたけど、僕はたった1人、全く可能性の無い人のチョコレートを待っていた。
下校の時に、下駄箱を期待と不安を胸に開けても何も入っていなかったし、1人で委員会の仕事を片付けている間も誰も現れなかった。
早い夕暮れの長い影を踏みつけながら帰った。
卒業式に記念写真を撮ろうと水野さんと渡辺さんに誘われた時も、恥ずかしくて断った。
今では、1番後悔してる。
小学校の卒業式でも同じ事をして後悔したのに、また同じ事をして後悔してる自分は、結局成長していなかったんだってその時気付いた。
喧嘩をしてた友達と卒業式の数日後に仲直りしたけど、今じゃ音沙汰無しだ。
最後に中学生の渡辺さんを見たのも、彼女の横顔だった。
ちょっと寂しそうな、でも、ふっ切れたような強い顔。
僕の知らない、誰かの顔を僕は追う事もせず、見送った。
―つまんない話だね。
僕にとっては大切な話だけどね。
これからの時間で1番大切な話になると思うんだ。
ツラい時に、必ず力をくれると思う。
―そういう話は、他人には伝わらないもんなんだと思うよ。
で、お前の恋愛遍歴を聞かせてもらおうか?
―だから、他人には伝わらないもんなんだって。
星がきれいだな。
来年は、誰とこの星を見るのかな。
知らない土地で1人で見るのか、また皆で見るのか、わかんないことばっかりだ。
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