新しい季節の始まりを受け入れるということ

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色づき始めた木々の葉と、めっきり涼しくなった気候が秋の訪れを教えていた。 中庭に植えられているキンモクセイの香りが窓から入り、心地よい香りに身を委ねていれば、苦痛も和らぐ。 毎朝のように遅刻ぎりぎりで校舎に飛び込み、朝のホームルームに出席するかどうかを決める。 ストレスが原因で調子の悪いお腹の調子が良ければホームルームに参加するが、調子が悪ければ参加は諦めてトイレに駆け込む。 そういう訳で、1時間目の授業にもぎりぎりで飛び込むことになり、後ろの席の松尾にその度に肩を叩かれ、からかわれることになる。 10月も半ばを過ぎれば、もう卒業はすぐそこだ、と話したら保は「卒業式は3月でしょ?」と言った。 「センターが終わればもう殆ど学校来ないだろ?」 と指摘してやると「じゃあもう先輩達のアホ面を拝まなくて済むわけですね?」と高野が笑みを含んだ声で言った。 「田原はアホ面な先輩で良いけど俺達も含めるなよ」 と三倉がこちらを見ながら言う。 「そうだぞ」 と松尾が続き、その首を田原が締めたところで、野々村が物理教室に入って来た。 今年の3年は成績が思わしくない。 だから、この時期に個人面談が開かれることになった。 野々村以外は全員個人面談を済ましている。 現状維持と言われた田原や柏木のようなのもいればもっと頑張れと言われた保や松尾みたいなのもいる。 「どうだった?」 と柏木が野々村に尋ねた。 合宿の始めは余り仲が良くなかった2人も、合宿後に物理教室に自然と足が向くようになってからはぎこちなさが消えた。 「もっと頑張れだって」 と言った野々村がリュックサックを乱暴に放り出した。 「俺、滑り止めを考えろって言われた」 と三倉がそれに続く。 「俺も」 と松尾が加わると、そこには受験生の会話の場が出来上がった。 そこから目を離し、すっかり秋めいてきた外の光景に目を向ける。 早い夕暮れの中を楽しそうに女子高生の一団が歩いていく。 そこに見知った顔はなく、田原はため息を吐いた。 「女子高の制服は良いですよね」 といつの間に居たのか、高野が横にいて、そう言った。 「まあな」 と言った田原が教室の中に体を向けると、まだ外を見つめたままの高野が「やっぱり大変ですか?」と神妙な口調で言った。 「まあな」 と答えた田原に「ですか」と高野が応じた。
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