新しい季節の始まりを受け入れるということ

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夕陽に染まる階段をおりる複数の足音と、話す声に身を委ねる時間が田原は好きだった。 三倉と柏木は帰る方向が違うから、玄関で別れることになる。 高野と保に松尾も、一緒に帰れるのは校門までだ。 高校受験で皆別々の道を歩くことになると田原は思っていた。 事実、歩美と田原は道は離れてしまった。 しかし、ある時ふと近づく事もあった。 大学受験が終われば、それまで肩を並べて歩いていた松尾達との距離は急速に離れることになる。 それぞれの進路で仲間を得ても、基本的には1人で歩く時間が始まる。 受験が終わるのを境に子供だった時間は終わりを告げて、大人に近づく事を求められる時間が始まる。 だから、子供みたいに皆は騒ぐのかもしれない、と田原は思う。 校門が近づいて来た。 車の流れが早い。 松尾達と別れた田原と野々村は車の流れが途切れるのを待った。 一瞬、車の流れが途切れた先に渡辺歩美の姿があることを期待した。 車の流れが途切れた。 渡辺歩美の笑顔は、田原の進む先にはなかった。
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