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「メンバーが集まったぜ」
と松尾が嬉しそうに言ったのは相変わらず暑い9月の第二週の金曜日だった。
歩美と再会してから一週間が経とうとしていたが、あれ以来彼女とは会っていない。
メンバーが集まったということで、なんだか得意そうな松尾に連れられて一年の校舎にある物理教室に向かった。
「つまり、物理部か?」
と言った田原に「つまり、物理部だ」と松尾が応じたので、取り敢えず松尾のバッグを蹴り上げておいた。
「うぉっぷ」
と漫画で使われそうな台詞を吐きながら前のめりになる松尾を押せば簡単に倒せるのだが、一年の前でそれはできない。
もちろん、二年の前でも三年の前でも残念ながらできない。
物理教室の扉を開ければ、見知った顔が3つ、こちらに向けられた。
まず、テニス部の三倉正樹。
彼はテニス部に所属していながらもテニスをしたことは殆ど無いらしい。
取り敢えずの入部を惰性で引きずってしまったのだ。
それでも彼が部内で干されなかったのは彼の明るい人柄と、腹黒さの為で、仲良くしておいて害は無いが喧嘩をしたらどんな害があるかわからないから、とにかく仲良くしておいた、というのがテニス部のメンバーの正直な気持ちだろう。
が、三倉はその腹黒ささえなければ性格も良く、ルックスもこざっぱりとしている為にモテただろう。
しかし、三倉にはわざと自分を腹黒く見せているような向きがある。
三倉は特別採用枠の物理部員だと言っていたのが、物理部の元部長野々村大樹だ。
名前通り、彼のガタイは良い。
が、運動はからっきし駄目だ。
喧嘩ではなかなかやられないだろうが、かといって相手を倒せる訳でもないだろう。
その野々村はこちらを見ると「田原、ちょっと」と言った。
野々村には彼女が居る。
中学の卒業式の次の日に告白されたらしい。
ことあるごとにアドレスを求めて来るのだが、田原には彼女は居ない。
その理由はとどのつまり、渡辺歩美の存在で、三倉と同じように彼もまた暗い雰囲気をわざと出している。
そんなものを気にせずに飛び込んで来たのが美咲で、彼女は唯一高校で話す異性で、気にはなっている。
気にはなっているが、渡辺歩美の存在が一歩を阻む。
今でこそ似ていないが、高校入学当初は美咲は歩美によく似ていた。
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