夏至りしひと時

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――カランカラン。 「霖之助さん。居るかしら? ああもう、外の暑さは異変級ね。お茶を楽しもうにも、これじゃあ飲めたものじゃないわ」 「霊夢か。いらっしゃい。外は暑かっただろう。でも、せっかく来たところすまないが涼しくしてやれるものは何もないよ」 現に僕自身、夏について高尚なことを考えつつも、この暑さに打つ手がなくて困っていたのだ。 「それよりも霊夢。君の隣にいる子は?」 赤と白の巫女装束の霊夢の隣に、背丈は霊夢より頭一つ分ほど小さく、橙色の髪の少女がいた。腰には大きな瓢箪を下げている。彼女が何者であるかは一目でわかった。 小さな体に不釣り合いに大きい角は、誰が見ても鬼のそれである。 「ああ萃香のこと? 香霖堂にかき氷を食べに行くって言ったらついてきちゃって」 なるほど、それが暑い中わざわざ霊夢が来た理由か。 「なあ霊夢。ほんとにこんな所で『かき氷』とかいうの食えんのか?」 「ええ、私たちが客である以上食べられるわ。霖之助さん、去年もいただいたかき氷、あるんでしょ?出してちょうだい」 突然押し掛けていきなりこれか……。 「まったく、君たちは、この店をかき氷屋か何かと勘違いしているのかい。そもそも毎回お金を払わずに帰る者を、客とは言わないだろう」 「じゃあ、友人としてかき氷をふるまってちょうだい。友人からお金は取れないでしょ?」 どうやら彼女にお金を払うつもりは無いらしい。まあ、いつものことか。 「ところで『かき氷』って何だ? うまいのか?」 「甘くて冷たいお菓子よ。細かく砕いた氷の上に、イチゴやメロンのシロップをかけるの。何なのかわからずについて来たの?」 「おう、でもなんだか楽しそうなのはわかった。甘くて冷たいのかぁ……。楽しみだな。なあ霊夢」 「ええ、楽しみね」   「盛り上がっているところ悪いが、かき氷は出せないよ。氷は幻想郷でも手に入るが、肝心なシロップが今年は手に入らなくてね」 外の世界で忘れ去られた文化は幻想郷で栄える。しかし、かき氷という文化は、まだ外でも栄えているようで滅多にシロップは手に入らないのだ。 「去年の残りは無いの?霖之助さん」 「去年、毎日のように食べに来たのは霊夢じゃないか。いや、霊夢ともう一人か」
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