過去、記憶の末端

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現在の皇太子はフェリア王国に災いをもたらすだろうという巫女の予言が、国の上層部を震撼させた。内々に執り行われた儀式での結果であれば皇太子をどこか市民に預ければそれで済むのだが、王が主催した正式な儀式の場で、そう結果が出たものだから、本来ならば彼は大衆の場で処刑されなければならなくなってしまう。   だが、現女王はそれをかたくなに拒んだ。   儀式からすでに一週間が経過した今でも、それはかわらない。   皇女の寝所で添い寝をしていたのは、ベリアとマリア、そしてその母の三人だった。日はとっぷりと落ち、夏虫の囀りだけが聞こえる。   ベリアは、寝所に潜り込んで、妹である皇女――マリアと抱き合うようにして母と尋ねてきた大臣との会話を盗み聞きしていた。マリアは静かに妖精のような寝顔で静かに寝息を立てている。 「内部状勢が他国に漏れないように細心の注意をはらいなさい。もしそのようなことがあれば、フェリアの小国などは容易く周囲の国に陥落させられることでしょう。そうなれば、国民は重い税に餓えることになりかねません」   もしかしたら巫女に予言を取り繕わせた何者かがいるかもしれない。それが誰が敵かわからないから、隠れていなさい。と母に言い含められていたベリアは、布団から出ようとはしなかった。 「分かっています……で、皇太子のベリア様についてなのですが」 「わかっています」   大臣の詰問するような声音に、母は呻くようにして答える。
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