過去、記憶の末端

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「下がりなさい」 「陛下」 「下がりなさいと言っているのが聞こえないのですか」 「かあさま、僕は――死ねば、解決しますか?」   ベリアが突然声を割り込ませたので、彼が寝ているのだろうと思っていた母と大臣は驚愕の表情でこちらを向いた。それから悲哀に満ちた表情を向けられる。彼の教育係でもあった大臣は、唇の端から血筋を流していた。   一瞬の無言の後。「なにを言うのです」母の戸惑った声。   ベリアはそれを遮った。 「では他にどうするというのですか。僕が死ねば内の乱れは治まるでしょう?」 「だからなにを――」 「ここで反乱が起きれば、僕やかあさまやマリアだけではなく、もっと沢山の人々が死ぬことになるんですよ? 反乱が起きなくても、侵略でもなんでも、時間が過ぎれば、過ぎるだけ。先延ばしすれば先延ばしするだけ、苦しむことが増えることになるんですよ?」   たとえば今の母や、大臣のように。   母がどんな顔をしているのか、そんなことは全く関係なかった。ベリアがまだ九歳の子供だとは思えない発言をしたのに驚いていたのだろうが、ベリアが護りたいのは当時も今も変わっていなかった。 「この者が王になってくれれば、この国は平和になりましょうに、時代とは残酷だ……」   大臣が呟いた。母は無言でベリアを抱きしめてくれた。   ――やめてくれ、僕はそんなに素晴らしい人格者じゃない。   ――小汚い詐欺師だ。   ――だって僕が護りたいのは……   ――王の位なんてどうでも良い。妹の、マリアの幸せさえあれば……image=273361754.jpg
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