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広すぎる中庭をぼんやりと眺めながら、マリアは小さく溜息を吐いた。
庭園には無数のコスモスが咲き、すぐにでも冬が来るのだと謳っている。
――コスモスと言えば、私が好きだと言ったからそうなったんでした……
マリアはふと、庭園がコスモスで埋め尽くされている理由を思い出す。
隣の国の皇子に「好きな花は?」と訊かれ、知っていた花の名を口にしたらこうなった。
大広間を見渡せば、絢爛豪華な調度品がこれでもかと並んでいる。
何不自由のない住らしが、マリアの周りには溢れていた。
マリアが皇女となってから、フェリア王国は平和になった。ただ、隣国はどんどん廃れていった。隣国の皇子たちは、こぞってマリアを求め、自国民から税を毟り取ったのだ。だから、
傾城傾国の悪女。
いつしかマリアは本人が望むと望まざるとに関わらず、隣国の市民からそう呼ばれ、畏怖の対象となるまでになっていた。
――私がいなければ、良いんでしょうか。
確かに、そう言う人間も多数いる。だが、彼女には死ねない理由があった。
「兄さま……」
――死ぬな、幸せに生きろ。生きてくれ。
そう最期に言い残して崖から突き落とされた兄の姿が脳裏をよぎり、マリアは眉根を寄せた。崖から突き落とされるのは、お前にはもう何もなくなる、地に堕ちろ、という意味を孕んだ処刑の形だった。
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