蛍と神風

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「まずは口にしてみてください」 初老のマスターはそう言いながらカウンターを出てくると、元の席に腰を下ろした。 「はい、では・・」 僕等は言われたとおりにカミカゼを頂く事にした。 口の中につめたく冷えたカミカゼが広がる、雪国と違い、ウォッカの酒精とライムジュースの酸味が先に舌を刺激する。後から仄かに感じるホワイトキュラソーの爽やかな甘み・・ 「強いですね、雪国より切れ味がいい・・」 僕は感じた事をそのまま口にした。 「そうね、私はどちらも好きよ」 妻はグラスを持ち、カミカゼを眺めながら感想を述べた。 君は何でも好きだろう・・・ 「そう、その切れ味の良さを神風に例えたんだな」 初老のマスターはそう言って煙草に火をつけた。 「神風特攻隊にですか?」 僕はすぐさま、マスターに尋ねた。 「ええ、実はカミカゼといってもアメリカ生まれのカクテルなんですよ」 「そうなんですか、わたしはてっきり・・」 「太平洋戦争の最中に生まれたカクテルでね、真珠湾攻撃の後にこの名がついたんだよ」 「へぇ・・じゃあ、随分と昔に生まれたカクテルなんですね・・」 「昔ね・・・」 「ええ」 初老のマスターは少し間を置き、思いついた様に口を開いた。
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