蛍と神風

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「ええ、他に若いのが二人いるから、その子達の意見も取り入れながら買い付けてますよ」 初老のマスターはスクイーザーでライムを搾りながら答えてくれた。 「すみません・・今日は・・お仕事中だったのに・・」 僕は本気でそう思った。 「いやいや、あなた達にお話したような事を論文にまとめていただけですから」 「え、そうだったんですか、でも、どうして?」 「毎年これくらいの時期になるとね、地域の学校や施設から要請があって、夏休みに入る前の学生さんたちに向けて講義をするようになっているんですよ」 「ああ、そうだったんですか・・・・そうゆう活動もしていらっしゃるんですね」 「ええ、実はわたしの父親は特攻隊の生き残りでしてね」 初老のマスターはそこまで話し終えるとシェイクをし始めた。 緩急を加えたシェイクの音が店内に響き渡る。 僕と妻は顔を見合わせた。 「はい、お待たせ」 初老のマスターはカミカゼを僕等の前に置くと、カウンターを出て、再び元の席に腰を下ろした。
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