蛍と神風

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「父にはね、生前から言い聞かされていたんです」 沈黙を破るようにして初老のマスターが口を開く。 「特攻隊の話ですか?」 「ええ、何度も同じ事を繰り返し聞かされてね、あんな部隊は二度と作ってはいけない、そういう世の中にしてはいけない、とね」 「そうでしたか・・・だからマスターは“伝える”という事でお父様の意思を引き継ぎ、地域の活動を続けているんですね」 「うん、出来得る限り伝えていきたいと思ってね」 初老のマスターはグラスを傾け、微笑んでそう言った。 「蛍のお話も講義の中でされるんですか?」 妻は話が途切れるのを待っていたかのように話に割り込んできた。 「ええ、しますよ。ああ、ごめんなさい、宮川隊員の話をする事になっていたよね」 初老のマスターはすっかり忘れていた様子で妻に謝っている。 「いえ、いいんです。よかったらお話して頂けますか?」 妻が謙虚な態度で人に頼み事をしている・・・ 今日は何かの記念日になりそうだ・・・ 「勿論お話しますよ、では・・」
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