蛍と神風

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その日の夜―。 富屋食堂は今宵もまた、明日の出撃に備え、名残を惜しむ隊員たちで一杯でした。 親や兄弟に別れを告げている者、恋人や許婚に胸の内をさらけ出している者、お国の為、家族の為とはいえ、前途を有望視されている若者達が何故こんな死に方を選ばなければならないのか・・・ トメは今宵もまた、居た堪れず、食事や酒を振舞う事によってその想いを紛らわしていました。 その時の事です。 1匹の蛍がフーッと店の中に迷い込んできたのです。 目ざとく、それを見つけたトメは一瞬青ざめてしまいました。 「宮川さんが帰ってきた!」 トメは大声で叫びました。他の隊員たちも 「宮川!宮川!」 と代わる代わる大声で叫びました。
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