蛍と神風

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そして、今まで隊員の前では決して涙を見せなかったトメも、今日ばかりは、声を出して泣きました。 しかも、トメは誰にはばかることなく、大声を出して泣き崩れたのです。 出撃前に涙を流す事は女々しく、“日本男児”のすべき事ではないと、皆我慢して出撃していましたが、母さんの泣き崩れた姿を見た、翌朝出撃を控えた隊員達も、今日ばかりは“人間らしく”大声を出して泣いたのでした。 蛍は暫くの間食堂内をゆっくりと大きく、弧を描きながら旋回していましたが、別れを告げるかのように、窓に見える闇夜に消えて行きました。 蛍となって帰ってきた宮川隊員を見送った隊員たちは、誰ともなく、ゆっくりとした口調で同期の桜を歌い始め、戦友を偲び、翌朝の出撃を控え名残を惜しむ晩餐は、夜通し続いたのでした。 2ヵ月後―。      1945年、8月15日。大日本帝国は敗戦し、その勇姿を見る事は二度と無くなったのです。  
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