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「と、いう事で、後もう少し終戦の時が早ければ特攻隊は出撃せずに済んだのですよ」
初老のマスターはグラスの脚をつまみ、指で回しながら眺め、話を終えた。
「・・・・・・そのようですね・・」
僕等は話の余韻に浸り、暫くの間黙り込んでしまった。
妻の目に涙が薄っすらと浮かんでいる。
「あの・・・一つ伺ってもいいですか?」
僕は沈黙を破り、気掛かりな点を初老のマスターに尋ねる事にした。
「ええ、どうぞ」
「マスターはどうして僕達を引き止め、こういった話をしてくださったのでしょうか?」
「・・・ああ、それはね」
「・・はい」
「確かに仕事も区切りのいいところだったし、話し相手が欲しかった事もあるが・・」
「ええ・・」
「あなた達夫婦が、今は亡きわたしの両親の若かれし頃の面影に似ていたからなんだ」
「ほ、本当ですか?」 僕は妻と顔を見合わせ、笑顔でマスターに聞き返した。
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