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「あー、見えなくなっちゃった」
妻は少し不満気な顔を見せ、遊歩道の柵を両手で掴み、光体が消えていった場所をいつまでも眺めている。
「はは、見る事が出来ただけでも良しとしようよ」
僕は子供に言い聞かせる様に妻をなだめた。
「そうね、そうしましょう」
妻は踏ん切りがついた様子で柵から手を離した。
「ああ」
僕は妻の言動が微笑ましく思え、少し可笑しくなった。
風の少ない蒸し暑い日の川のほとり。
空は日が沈み切り、その装いを変え、辺りは暗くなり始めて街灯に灯りがともった。
「ねぇ、会社の人に聞いていた店、行ってみない?」
妻は思いついた様に話を切り替えした。
「ええ?これから?」
僕は半信半疑に妻に聞き返した。
「そう、これから」
「今日は休日だし、店を開けているかどうかもわからないよ」
「いいのよ、場所も確認したいし、行くだけ行ってみましょ」
「・・・そうか、わかった、じゃあ行ってみようか」
「うん」
僕等は話しがまとまると川のほとりを離れ、それほど離れていない繁華街に向って歩き出した。
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