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国道から延びている大通りの商店街、そこから少し入った小路に面したビルの3FにそのBARはある。
僕等はその情報を頼りに店に辿り着き、扉に手を掛けた。
「あ、開いてるね、ドア」
「ほら、開けてるのよ、入りましょ」
妻は僕を盾に、押すようにして先に行かせた。
「すみません、今日は営業していますか?」
僕は店内に向け、少し声を大きくして尋ねた。
「ああ、ごめんなさい、今日は休みなんですよ」
カウンターの一番奥に腰を下ろし、何か書き物をしている様子の初老の男性はこちらを振り向き、見て窺い、丁寧にそう答えた。
「ああ、そうでしたか、すみませんお仕事の邪魔をして、また出直します」
僕は軽く会釈をすると
妻を押し返し、店を出ようとした。
「お待ちなさい」
初老の男性の太くて艶のある声が僕等を呼び止める。
「・・はい?」
僕は不意に呼び止められた事に驚き、不自然な笑顔で聞き返した。
「仕事も行き詰っていたところだ、よかったら少し寄って行きませんか、話し相手が欲しかったものでね」
初老の男性は目尻にしわを寄せ、笑顔で僕等に誘いを掛けてきた。
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