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僕等は目を合わせ、少し間を置くと、
「ええ、では遠慮なく」妻はそう言って本当に遠慮がない様子でカウンターに腰を下ろそうとしている。
「おいおい」
僕は妻の行動に驚き、妻の肩に手を掛けた。
「ははは、いいんですよ、さ、遠慮なさらずに、あなたもお座りなさい」
初老の男性はカウンターの中に入り、手を洗いながら笑顔で迎え入れた。
「すみません・・じゃあ、少しだけ」
僕は図々しくも先に腰を下ろしている妻に目配せをしたが、妻は素知らぬ顔で酒棚に並ぶ酒たちの品定めをしている。
いつもこれだ・・・
僕は妻の取った行動に気後れしながらもカウンターに腰を下ろし、店内を見回した。
木目のカウンターにはアンティークな装いをした椅子が10脚程連なり、狭い店内にはテーブルがなく、カウンターだけの営業スタイルの様だ。
照明は調光された白熱灯があちこちに設置されており、オレンジ色の光を優しく放ち、気持ちを穏やかにしてくれる。
バックバーはスペースがないものの質の高い酒が列を連ね、酒棚はカウンター席の背後にも用意されており、ビンテージ物の酒たちがところ狭しと並んでいる。
転勤する事になり、新しい生活に入る僕等の為に、この土地に勤務経験がある会社の同僚が紹介してくれたBARであった。
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