蛍と神風

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「あの・・」 妻が初老の男性に何か尋ねようとしている。 「はい、何でしょう」 「お店の方ですか?」 素朴な質問だが確かに気になる・・・さすが我妻。 僕は胸中で妻を賞賛しながら初老の男性の答えを心待ちにした。 「ええ、そうですよ、店主です。普段の日は他に若いのが二人いますがね」 初老の男性は笑顔で身分を証してくれた。 僕は何故か安心し、笑顔で妻に目配せをしたが、僕の目線などお構いなしに妻は質問を続けた。 「じゃあ、何か作って頂けるのかしら?」 妻は図々しくも自ら注文しようとしている。 「おい」 僕は急いで妻を遮ろうとした。 「はは、いいんですよ、何をお飲みになるかな?」 初老のマスターは酒棚に目を向け、笑顔で受け答えた。 「私は雪国を」 妻は間髪入れずにしかも笑顔で注文を済ませた。 何故笑っていられるのだろう・・・ 「おいおい、休みの日なんだから、カクテルなんて手間の掛かるもの注文するなよ」 僕はいい加減おこがましく思え、妻を遮った。
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