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「では、頂きます」
僕等はカクテルグラスをつまみ、雪国をゆっくりと口に運んだ。
砂糖が口の中で溶け、ホワイトキュラソーとライム果汁によって甘味に変化が生まれる。
喉元を通り過ぎるあたりで感じるウォッカの酒精。
「おいしいです」
妻は満面に笑みを浮かべて初老のマスターを賞賛した。
「ああ、ありがとう」
初老のマスターはスニフターグラスにブランデーを注ぎながら笑顔で答え、カウンターを出ると、僕等の隣の席に腰を下ろした。
暫く沈黙が続き、僕は妻とマスターに挟まれて、言いようのない緊張感に見舞われ、冷や汗をハンカチで拭った。
妻は素知らぬ顔でカクテルグラスを片手に店内を見回している・・・この人は何も感じないのか・・・
「あなた達は新婚さんなのかな?」
沈黙を破るようにして初老のマスターが僕等の顔を交互に眺めながら尋ねてきた。
「ええ、そうなんです!わかります?」
妻はそこには興味を示したようで、急にマスターに向って笑顔で答えた。
「ああ、何となく、雰囲気でね。それと指輪をきちんと2本しているから」
初老のマスターは僕等の左手の薬指を交互に眺めて笑顔を見せた。
「ああ・・・そうですよね、確かに」
妻は自分の指輪を眺めながら嬉しそうにしている。
妻が照れている・・・このマスター・・・出来る。
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