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「この店は初めてかな?」
初老のマスターは煙草に火をつけ、話を切り替えした。
「ええ、そうなんです。実はこの辺には越して来たばかりでして・・」
僕は新参者らしく、はにかんで答えた。
「ああ、そうですか。で、どちらから?」
「東京です」
「ああ、それはまた遠いところから大変だったねぇ」
「ええ、正直言うと参りました。わたしの転勤と婚礼式が同時期に重なりまして・・」
「ははは、それじゃあ新婚旅行も行っていない様子だね」
「いえ、一週間程前にこちらには着いていましたので、一通り九州を回ってきました」
「ああ、そうですか、鹿児島はどの辺りを回られたのかな?」
「それが、時間があまり取れなかったので、桜島に渡った程度で他には何も・・」
僕は何故か申し訳なさそうに苦笑を浮かべ、頭を掻きながら答えた。
「ああ、そうですか・・」
初老のマスターは少し寂しげな面持ちでグラスを傾けている。
話は途切れ、暫し沈黙が続いた。
僕は妻に眼をやってみると、どれくらいからこの状態なのか、カクテルグラスは綺麗に空いており、カウンターに並んでいる酒を手に取り、品定めをしている・・
話を聞いていなかったのか・・・
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