冬日の魔女と、ある孤児の話

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私の父は誠の善人でした。天に誓って仁徳の人でした。 犬のように路傍に打ち捨てられ泥に塗れた私を拾い、家族のように育て、息子のように愛してくれた。 昨晩、父が死にました。いいえ、ただ死んだのではありません。私を庇って殺されたのです。 嗚呼、どうか聞いてください。不貞の輩の乱暴から通りすがりの少女を庇おうとすることが、殺されるほどの悪事でしょうか。いいえ、私はあの時、たしかに私自身の正義の声に従ったのです。なけなしの勇気を振り絞ったのです。 嗚呼、嗚呼!どうして!私が名も知らぬ少女を助けようとしたばっかりに、善良な父は殺されたのです。見せしめに踏みつけ罵られ、唾を吐きかけて辱められたのです。 父は私の目の前で、私の代わりに死にました。父が教えてくれた人の世の正義が、誠実が、裁判官、あなたの心に僅かでもあるならば、父の仇にどうか裁きを与えてください。
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