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襤褸同然の外套を体に巻き付け、懐に錆びかけた短刀だけを入れて町を出ると、孤児は太陽と星を頼りに北へ向かった。
孤児は生来、動物達の声を聞くことが出来た。忍び寄る冬の足音に追い立てられるように南へ向かう渡り鳥の噂話や、旅商人の荷を引く馬のため息混じりの愚痴、何処かの軒先から逃げ出してきた野良犬の冒険譚に耳を傾けながら歩いた。
途中、魔女の話を集めようと立ち寄った村や町で石を投げられ押し倒されることもあったが、その度黙って立ち上がり、泥を払ってまた歩いた。
果たさなければならない約束があるのだ。
言いながら、挫けそうになる度にぐらつく足を叱りつけて旅を続けた。
やがて枯れ野に霜が降り、旅立って半月がたとうかという頃、枕がわりの切り株の下にいた蛇の寝言を聞いた。
「羽を怪我したあの孤児は、冬日の魔女に会えたかしら」
冬日の魔女。確かにそう聞こえたぞ!ならばそうか。本当に魔女はいるのだ。
突然の朗報に色めき立った孤児は、ここまでの旅の苦難もなんのその、日の出と共に元気よく出発した。
それから、追われては逃げ、夜露で飢えを凌ぎ、草を枕に眠るかわりばえのない日々が過ぎ。
凍てつく風にちらりと白いものが混じり始め、約束の刻限の半分に差し迫ろうかという秋の暮れに、孤児は探し求めた場所を見つけた。
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