冬日の魔女と、ある孤児の話

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裁判官が言っていたように、冬が来ようというこの季節にも、森の周辺には青々とした茨が生い茂っている。 立ち入ろうとするものを拒絶するように木々に絡まる刺の壁をきっと睨み付けると、孤児は己を奮い立たせて進行を始めた。 行く手を塞ぐ蔦や枝葉を切っては捨て切っては捨て、増えていく傷の痛みにも歯を食いしばって耐えた。 行けども行けども森は深く、茨の刺が細い腕を裂き、大蛇のようにのたうつ木々の根に足を取られて何度も転ぶ。 ふと、またもや尻餅を搗いた拍子に、どこからともなくか細い声を聞いた。 辺りを見回してみれば、地に着いた掌のすぐ横に、一羽の小鳥が蹲っている。 「いけない、もう少しで潰してしまうところだった。羽を怪我して動けないのか。可哀想に」 なにもできないが捨て置いて行くことも出来ない。 擦り切れた外套で包んでやろうとした時、震えるように小鳥が鳴いた。 「親切な人、お願いします。どうか命が尽きる前に、冬日の魔女に会わせてください」 孤児ははた、と手を止めた。 手負いの小鳥が魔女に会ってどうするのかと不思議に思ったのだが、いや、どうせ自分もその魔女に会いに行くのだ、構いはしないと一人得心し、小鳥を拾って先を急いだ。 腕に抱えた小鳥を庇っていよいよ体は傷つき、やがて小さな窪地に抜ける頃には満身創痍。疲れ果てた孤児はどさりと草野に倒れ込み、いつの間にか眠ってしまった。
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