冬日の魔女と、ある孤児の話

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ある村に、医師の父を持つ女がいた。娘の村は、ある時恐ろしい伝染病に襲われた。 女は病を癒す術を探し求めた。あらゆる薬やまじないに通じ、やがて魔女の力に希望を見いだした。 苦心して見つけ出した魔女に女は乞い願った。しかし魔女は年老いていて、女の望む奇跡の術を持ってはいなかった。 魔女は代わりに別のものを女に渡した。死に際の魔女の手を握るとその力を得られる。女は魔女になった。 魔女は村へ帰ったが、結局病を癒す事はできなかった。魔女が一つ癒すうちに、病魔は十、十癒すうちに百、家族や恋人の体を蝕んだ。 死にゆく彼らをこの世にとどめようと、魔女は願った。願いは叶った。人々は苦しみながら生きながらえた。やがて痛みに耐えかねた村人達は、自ら命を絶っていった。 人々をこの世にとどめた魔女の願いは、彼らが死んでも生き続けた。時を止めたように、魔女の周囲では何も朽ちず、冬ならやむことのない雪が降り続け、夏なら沈むことのない太陽が大地を焼いた。 魔女は村を捨てた。数多の地を渡り歩き、魔女と知られれば追い出され、やがてある春の日、人里離れた森に捨てられた小屋を見つけた。 永劫春のままの森には、いつしか手負いの動物や群れをはぐれた渡り鳥が尋ねてくるようになった。 それから、数えきれないほどの月日が過ぎた。
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