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裁判官。約束を果たしに参りました。私は帰って来たのです。
心臓もここにあります。見てください。ほら、そんなに怖がらないでしっかり見てください。襲いかかったりは致しません。実のところを言えば裁判官、これをあなたに渡すつもりもないのです。私はただ伝えたいことがあったがためにこの場に参りました。聴衆の皆さん、どうぞ聞いてください。
私の父は誠の善人でした。天に誓って仁徳の人でした。
この異形の角のために犬のように路傍に打ち棄てられ、泥に塗れた私を拾って家族のように育て、息子のように愛してくれた。
父は死にました。いいえ、ただ死んだのではありません。私を庇って殺されたのです。私が通りすがりの名も知らぬ少女を助けようとしたばっかりに、善良な父は殺されたのです。見せしめに踏みつけ罵られ、唾を吐きかけて辱められたのです。
私は流浪の身です。行く先々で悪魔と呼ばれては蔑まれ、何をしたわけでもなくとも罵倒されてきました。しかしどうでしょう。本当の悪魔はどこにいるのでしょうか。少なくとも私は、私の心に後ろ暗いところのないことを知っています。出来るものなら、この場で胸を裂いて、私の真紅の心臓をお見せしたい。私の体を巡る血の最後の一滴まで、誰にも恥ずべき所はありません。
それでもやっぱり、わかってもらえないのは悲しかった。悔しかったし憎かった。そうしていつしか訴えることも忘れていたのです。抗う事をやめたのです。冬日の魔女に出会うまでは。
私は決めたのです。嘘つきと罵りたくば罵るがいい。愚かと笑いたくば笑うがいい。どんなに人が私を悪く言おうと、私は神に誓って、正義を貫いた自分を知っています。復讐など誰がするものか。暴力の罪を暴力で購うなど馬鹿馬鹿しいにもほどがある。父がこの場にいたならば、父もそう言ったでしょう。この心臓の持ち主が、私にそれを気づかせたのです。
父は私の目の前で、私を庇って死にました。貴殿方の心にも正義があるならば、聴衆の皆さん。あの日あそこで起こったことの真実を、いつか誰かが話してくれると信じています。
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