冬日の魔女と、ある孤児の話

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「その小僧を捕まえろ!」 孤児が守衛を振り切って静まり返った法廷を飛び出すのと、怒りに顔をひきつらせた裁判官と若者が叫んだのがほとんど同時だった。 大通りに飛び出し、駆けつけた役人の手を辛くも逃れて走り出した孤児は、自分を呼ぶ鋭い声を聞いた。声のする細い路地を見れば、外套を目深に被った人影が手を招いている。 「こちらです。ついてきて」 「誰だ」 「二月前、貴方と貴方の父君に助けていただいた娘でございます。時間がありません。どうか早く」 驚く孤児の腕を取って、少女は路地に駆け込んだ。後ろから追い立てる声が僅かに遠ざかる。 「父君を私刑にしたあの男は、この町の貴族の息子です。あの裁判の日、私は役人に閉じ込められてとうとう証言台に立てませんでした。お許しください」 「そうだったのか」 「顔をお見せするのが怖くて、今日は壁の外で貴方の話を聞いておりました。お二人には本当にどれだけ感謝しても足りません。この道を行けば人に出会わず町を抜けられます。逃げてください」 「私が怖くないのか」 孤児が思わず訊ねると、少女は少し面食らったように目をしばたたかせた。 「あんなによくしていただいたのに、何を怖がることがあるでしょうか」 なんだか無償に嬉しいような、泣きたいような気持ちになって、孤児は微笑んだ。 「ありがとう。その言葉で父も私も救われた」 「どうかご無事で」 無人の路地を駆け抜け町を飛び出す。魔女に心臓を託されてから、ひた走りに走って十五日が経っていた。心臓が止まるまで、あと半月もない。間に合うか。いや、なんとしても間に合わなければならない。会って言いたいことがあるのだ。
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