冬日の魔女と、ある孤児の話

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孤児は走った。 命を燃やすように力の限り走った。 傷だらけになった足が一歩大地を踏む度に、じりじりと落ちてゆく太陽はその速度を緩慢にするようだった。 いや、まさにそうなのだ。見よ!なんの因果かはたまた運命の悪戯か、止まりかかった心臓が、孤児の願いを叶えたのだ。流れが止まった川を飛び越え、足から血を流しながら、孤児はつむじ風のように走った。 やがて無限にも思える時を経て、太陽が燃えるような夕陽に姿をかえる頃、孤児は北の森へたどり着いた。 青々と茂っていた茨は枯れ落ち、木々はその身に雪を積もらせている。 もはや世界の時間を止め、孤児を走らせていた不思議な力も消えた。今にも倒れ伏せそうになりながら、最後の力を振り絞って前へ進む。 とうとう森が開け、あの原っぱにたどり着いた。緑の絨毯は今まさに霜で覆われようとしている。霞む目で残った草地の中央を見れば、そこには枯れかけた木の幹に背中を預けて目を閉じる魔女が。 重たい体を引きずり、その前に倒れ込むと、魔女は驚いたように目を見開いた。 間に合った。
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