94人が本棚に入れています
本棚に追加
孤児は走った。
命を燃やすように力の限り走った。
傷だらけになった足が一歩大地を踏む度に、じりじりと落ちてゆく太陽はその速度を緩慢にするようだった。
いや、まさにそうなのだ。見よ!なんの因果かはたまた運命の悪戯か、止まりかかった心臓が、孤児の願いを叶えたのだ。流れが止まった川を飛び越え、足から血を流しながら、孤児はつむじ風のように走った。
やがて無限にも思える時を経て、太陽が燃えるような夕陽に姿をかえる頃、孤児は北の森へたどり着いた。
青々と茂っていた茨は枯れ落ち、木々はその身に雪を積もらせている。
もはや世界の時間を止め、孤児を走らせていた不思議な力も消えた。今にも倒れ伏せそうになりながら、最後の力を振り絞って前へ進む。
とうとう森が開け、あの原っぱにたどり着いた。緑の絨毯は今まさに霜で覆われようとしている。霞む目で残った草地の中央を見れば、そこには枯れかけた木の幹に背中を預けて目を閉じる魔女が。
重たい体を引きずり、その前に倒れ込むと、魔女は驚いたように目を見開いた。
間に合った。
最初のコメントを投稿しよう!