勇者の旅のお供だとさ

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現在、太陽は地平線の向こうへ沈みかけ、空を赤く染めていた。 その赤い空を烏の群れが、あの奇妙な鳴き声を上げながら山岳へと飛び去っていく。 こんな情景は、なんとも懐かしく、田舎育ちの俺に取っては幼少時代を思い出す安らかなモノである。 しかし実際の所、内心穏やかな訳が無い。 俺達は村を出てガギン山へと向かっているが、俺は取って返して謝罪したい気持ちである。だがその気持ちを隣を歩くエセ勇者と、背中の更に膨らみを増したリュックが阻害する。 まあ、報復を恐れている気持ちがあるのは否定できないが。 何があったか察しが良い方は分かると思うが、いや、分からない方は居ないと思うので説明はしない。説明すると俺の心を蝕む罪悪感が、加速魔法を掛けられた砲弾の如き速さで増加してしまうだろう。 横を歩く勇者(仮)が微妙に満足げなのが、更に罪悪感を加速させる。どうせなら馬を盗ってくれば良かっただろうに、俺よりかは荷物持ちの役目を上手く果たしてくれると思うぜ。 溜め息を吐くと幸せが逃げると言うが、既に幸せが底に着いていたらどうなるんだろうね? 俺の吐いた溜め息は、仄かに赤く染まった草原に吹く風に乗って、大空を吹き渡っていくことだろう。 かくして俺と勇者(仮)の金銭と犠牲にまみれた旅は前途多難に始まったのである。
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