勇者が現れましたとさ

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「ぐ……、クソッ」 朱い装飾が施された白銀の鎧を纏った、中年の男兵士が反吐を吐いて悪態を唸る。 頭に違和感を感じ、舌打ちをして、自分の意識を数時間奪ったオークの棍棒を背中から取って投げ捨てる。 どうやら、不運にも不覚にも投げられた棍棒が頭に当たったらしい。 頭がジンジンと痛い。 とりあえず、今、どうなってんだ? 彼は地面に倒れた体を起こさず、泥塗れの顔だけを上げて周りを確認して、そして絶句した。死屍累々の戦場がそこにあった。 誇り高きブサ国兵士団はオーク達に蹂躙され、肢体を泥と自らの血で染め上げ、白い鎧は見る影もなく凹み壊れ、誇りと栄光の象徴である旗は全てが引き裂かれていた。 「馬鹿な……、我らはブサ国兵士団だぞ……。有り得ん、嘘だ……」 今、戦場で戦っているのは四千の兵士の内、二千程度だろうか。 圧倒的不利の中、それでも彼らは皆、疲労困憊で重たい足を引き摺るようにオークと戦っており、簡単に薙ぎ倒されていた。 誇りを守る為とは言え、無謀過ぎた。 逃亡した兵士も居るだろうに、彼らは国民の為に身を粉にして戦っているのだった。 嗚呼、神が居るなら聞いてくれ。 彼らを守ってくれ。 祖国を守る彼らを救ってくれ! 朱い装飾の白鎧を着た中年の男は不甲斐なさを承知で願う。 兵士になってから神を信じなくなっていた彼は、今正に神様に懇願していた。 その願いを神は履き違えたようです。
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