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「あっ、そう言ったっけ」
本当に忘れてたよ。
「だからバイトってなんですか?」
僕が聞くと綾香さんはすぐに答えようとしたが、すぐに口を閉ざした。言おうとした言葉を飲み込んだのだろう。
「それはまだ秘密。
ヒントはメイクするってこと。答えはメイクが終わった後教えてあげる」
ニコニコ笑いながら言ってくる。
僕はクイズなんかしている暇なんてないんだけど。
「じゃあ仕事のことは後にして、最後の質問」
早くメイクルーム入らないのかな。ずっと立ち話してるんだけど。
「なんか始めはすごい警戒してたけど、今は全く警戒してないよ。
今更だけど、もしかしたら詐欺かもしれないよ?」
そういえば今は全く警戒してない。さらに始め変質者と思っていた人と普通に会話しているし。
「あまり覚えていませんが、僕は社長室を出るまで、ずっと警戒していたと思います。
でも僕が警戒を解いたのはおそらくエレベーター内の会話のせいだと思います。綾香さんの過去のことを聞いて、綾香さんの笑顔を見ました。あれはたぶん心からの笑顔だと思います。
今から詐欺をする人がターゲットに自分の辛い過去を話すはずがないし、心からの笑顔を見せるとは思いませんし」
「成る程。遥輝くんもよく考えていたんだ。
あともう言わなくてもいいかもしれないけど、これは詐欺ではないわ。
まだバイトのことを秘密にしてるのは疑っちゃうかもしれないけど、私を信じて」
確かにまだ少し疑ってしまう。
でも私を信じてとまで言われてしまうと、なんか信じてしまう。
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