第一幕

4/5
前へ
/105ページ
次へ
……ちっとも変わらねぇな。 煙草を吹かしながら、ウィンバードは助手席に座るアーリーをチラリと見る。 あれから16年。 少しは大人びて来たかと思ったが、どうやら外見だけだったらしい。 「ウィン」 「何だ?」 「…家、あれだよ」 沈みきった声に、ウィンバードは車を停めた。 「大丈夫か?無理だったら残ってていいんだぞ」 「…………ねぇ、ウィン」 「ん?」 「ウィンの家族が殺された時も電話掛かってきた?」 「電話?」 記憶を掘り返す。 だが、家族が殺された時に電話が掛かって来た覚えはなかった。 「………いや。掛かって来なかったな」 「そう…。じゃあ違う犯人なのかなぁ」 「相手は何て言ってきたんだ?」 「…………ごめん。今は言いたくない。後から話すから」 「ああ。分かった」 アーリーは家族が大好きだった。 勿論、ウィンバードも家族のことを好いていたが、表には決して出さなかった。 ウィンバードが極力他人と関わることを避けていたということも、原因の一つだろう。 そんなウィンバードが唯一心を開いた友人がアーリーなのだ。 昔馴染みでもあるし、とぼけてはいても芯は強いアーリーだからこそ、ウィンバードは心の内を何でも話した。 家族が殺されて、以前よりも益々心を閉ざしがちになったウィンバードだが、アーリーだけは変わらず受け入れている。 其れほどに大切な友人なのだ。 そんなアーリーが話したくないと言うのなら、無理に聞く事は躊躇われる。 ウィンバードは運転席を開け、再度アーリーに聞いた。 「どうする?」 「行くよ」 顔色は悪かったが、しっかりとした口調でアーリーは言った。 「ーーーーウィン」 「どうした、アーリー」 「変わらず友達でいてね」 「当たり前だろ」 そう言って、ウィンバードはアーリーの頭を撫でてやる。 ウィンバードの掌の暖かさを感じながら、アーリーはまた涙を流したのだった。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加