ケースNo.01 古河夏実『オキザリ』上

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私は、あの男の異様な雰囲気に挨拶もせずすぐに店を飛び出した。 走って走って息が切れるほど走った…まるで何かから逃げるみたいに。 「はぁはぁ…はぁはぁ…」 鼓動が凄い…。 「…っく…何なのよ、もう」 ちょうどその場にあった電信柱に手をつき鼓動を落ち着かせる。 「はぁはぁ…っあ!?」 すると再び左目に圧迫されるような激痛が走る。 「いっつ…!?」 痛みを堪えながら左目を抑えると私は、瞼の奥に妙な違和感を感じた。 「え…?」 柔らかい…瞼に触れるとまるでその奥に何もない様な感触があるのに気付いた。 左目が…目玉が完全に無くなっているのだ…。 「ウソ…ウソ…私の左目は…?」 現実が受け止められず妙な笑みが溢れてくる。 「はははっ…どうなってんのよ…どうなってんのよ!!」 訳が解らず自分の額を電信柱に打ち付ける、だがどんなに打ち付けても左の眼球が戻ることは無かった。
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