ケースNo.01 古河夏実『オキザリ』下

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数分後――― 私はシャワーを浴び身体を浄めた後、池神さんから渡された白い浴衣に袖を通した。 「ん…?」 この浴衣は…? 奇妙に思いながらも神棚の方へと移動すると…そこには同じ白い浴衣に身を包み、髪に鈴の付いた飾りをつけている池神さんがいた。 意外にもしっくりしていたその姿…。 随時見とれてしまった…。 「あの…池神さん…この浴衣、際どいって言うか…」 正装のわりには私に渡された浴衣は胸元が広がった物だった。 「それは僕の趣味だよ、気にするな」 気にするだろ? フツー…これ正装じゃないだろう? 「……」 すると池神さんは私の後ろを見据えるように目を細めていく。 「何か…?」 「神前の準備をしておいてよかった…そこまで膨れ上がった事象なら祝詞を唱える必要はないだろうなぁ」 「祝詞…?」 池神さんは私の言葉に反応を示さずに背中を向け杯にゆっくりとお酒を注いでいく。 「本来はねぇ、こうやって神前で儀式をして神様に降りてきてもらうのが普通のやり方なんだ、僕の先輩もそうやってた…彼は事象とは言わずに怪異と称していたけどね」 彼はゆっくりとこちらに振り向き酒を注いだ杯を私に差し出す。 「お酒を…飲むんですか?」 「やり易くする為だ…強制はしないけど、その代わり失敗しても文句は言わないでくれよ」 その言葉に反応し私はお酒を受け取って一気に飲み干す。 「ははっ…弱ったなぁ全部は飲まなくていいよ」 「あ…すいません」 「今朝の手順だと祝詞が必要で面倒くさくてねぇ…」 面倒くさい…でもこの儀式の方が――― 「祝詞は術者に負担がかかる…僕、実際は自分の利益になる事しかしたくないからさ」 この人の腹黒さが初めて見えた瞬間だった。
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