ケースNo.01 古河夏実『オキザリ』上

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池神商店――――― 私の住んでいる家は東京都と言っても田舎の方にある。 原宿や渋谷、新宿や六本木みたいにビル街は広がっておらずどちらかと言うと民家や江戸時代の名残がかなり残る風景がよく見られる。 そんな場所に17年間住んだ私でも、この老店舗は一度も見た事がなかった。 カビ臭い匂いに土煙が立ち上りそうな程汚れた床…これは一見見たら破棄された家にも見える。 「何が売ってるんだろう…」 間が指したのかあろうことか私は、この老店舗の中に入ってしまった。 当然買うつもりなど無い…しかし――― 「雑貨屋さん…」 売っている物は文房具類、鉛筆、消しゴム等々…。 シャーペンが無い…この新世代にシャーペンの売っていない雑貨屋を私は初めて見た。 ここはまるで江戸時代から時間が止まったままか? いや…と言うか江戸時代に雑貨屋はあったのか? そんなくだらない事を考えていると店の奥から1人の男性が現れる。 「いらっしゃい」 黒髪に淡い紺色の浴衣…日本男児という言葉をそのまま現実世界に具現化したような風貌だ。 そもそも日本男児は浴衣なのか? 黒髪なのか?もしかしたら金髪かもしれない…今の世の中どんなチャラい男でも日本に住んでいればそれで日本男児の完成なのだろうから。 「何か御用かな?お嬢ちゃん?」 「あっ…いぇ…このお店初めて見たもので」 人間の条件反射に感服する、思ってもいない程礼儀正しい言葉が出てくるものだ。 「あっ…そうかぁウチ今日からお店を開店したんだよ」 その男性は目を細くしながら接客ならではの作り笑いで対応してくれた。 てか…今日からなのか…? この店…江戸からだろ?とはけして言えない私がいた。
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