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屋敷に帰ってからは、ずっと部屋に閉じこもる事が多い。
この屋敷の中には、俺の居場所が無いからだ。
父上にしても、期待は全て双子の兄、アッシュに寄せており、俺の事は眼中に無い。
「・・・くそっ・・・」
眼鏡を取り出し、昨晩読みかけだった本に視線を移す。
父上の仕事のおこぼれが俺に回ってくる事も有るが、殆どがどうでもいい雑務ばかり。
頼まれた期限までに間に合わせても、褒めるどころか何も言わずに部屋を出るように、扉を指差すだけだ。
コン、コン・・・
そんな小さなノック音が耳に届き、俺は振り向く。
「紅茶を持ってきたわルーク」
「いつもありがとな、ティア」
ただ、ティアが居てくれるだけで、すさんだ気持ちが落ち着く。
だから、失いたくない。
手に入れたい、彼女の心を。
「ティア」
「何?」
「・・・いや、何でもない」
「・・・?
そう・・・無理はしないでね」
パタン、と扉が閉まる。
「ティア、お前が好きだ」
届くわけが無い。
届くわけが無いと判っていながら、俺は呟いていた。
言えない苦悩、言えなかった後悔だけが俺を支配していたのかもしれない。
ティアが用意した紅茶を飲んでも、味を感じる事が出来なかった。
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