ブライト・キャット

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少年は荒野に立ちすくみ、 猫を抱く手にギュッと力を入れた。 少年が抱いているのはペットの猫だった。 猫の名前はブライトといった。 賢いオスの猫だった。 ペットというよりも少年の親友といったほうが近かった。 全ての家族を失った少年にとって、 ブライトは今やたった一人の、いや、 たった一匹の家族といってよかった。 少年とブライトの周りは、 壊滅状態の都市がどこまでも広がっていた。 そしてそこには無数の野良猫たちと、 家を失った無数の人間たちがうごめいていた。 彼等は皆傷を負い、餓えていた。 そこには全ての秩序が失われた無法地帯と化していた。 猫のエサを奪う人間たち。 人間に蹴飛ばされる野良猫たち。 猫から奪った食べ物をさらに人間たちが奪い合う。 無数の人間と猫の死体。 全身を血で覆われ喉の渇きを訴え、 水を求めうめいている人々。 少年はブライトをさらに強く抱きしめた。 こんな世界でこれからどうやって生きていこう・・あまりにも強く抱きしめたため、 ブライトが苦しそうに 「ニャー」 と鳴いた。 少年はそれでもブライトを抱く手を緩めなかった。 もしここでブライトと離れてしまったら、 もう二度と会えなくなってしまうだろう。 こんな荒れ果てた世界でブライトと離れて一人で生きるなど 考えられなかった。 ブライトはなおも抵抗して少年から離れようともがいた。 少年は焦った。 「ブライト!ブライト!しーっ、おとなしくして!」 しかしブライトはさらに激しく暴れた。 そして少年はついにブライトを手放してしまった。 一瞬の隙をついてブライトは少年の体を離れ、 瓦礫のなかを疾走していってしまった。 「ブライト!戻っておいで!」 少年は何度も叫んだが、 ブライトの姿はどこかへ消えてしまった。 少年はたった一人で残された。 少年の周りには堕落した人間たちと野良猫たち。 中には何かの注射を回し打ちしている人間もいる。 まさにそこは地獄のような世界だった。 少年は心細かった。 どのくらい時間が経過しただろう。 少年がふと見ると瓦礫の山の向こうから、 見慣れた影がこちらへとやってくるのが見えた。 それはよく見ると・・
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