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人々で溢れかえっている高校の中に、スーツをラフに着崩した男とその男の後を遅れないようについていくカメラを持った青年がいた。
カメラはそれなりに大きい物で、青年はカメラを肩に担いでいる。
「何の騒ぎかと思えば……、ただの文化祭ってどーなのよ?」
無精髭を生やした男は落胆の色を隠そうとはしない。
「せっかく吉岡クンを借りてカメラの準備までしたのにねぇ」
後ろをついて来ていたカメラを持った青年は「はい?」と声を上げる。
「いーじゃないですか、文化祭!僕は好きだなぁ、こういうの」
ここに来るまで面倒臭がっていたカメラマン、吉岡の妙に機嫌の良い声に男は眉をひそめながら振り返る。
「……って、何やってんの吉岡クン?」
カメラを持っているのとは反対の腕には沢山のビニール袋がぶら下がっている。
その中身は全て食べ物のようだ。
「いやぁ~、こういうの見るとつい買っちゃうんですよね、僕ってば」
へらへらと笑う吉岡に男はため息をつく。
「ただの文化祭に興味ない、帰るぞ」
「え、竹澤さん帰るんスか?」
無精髭の男の名は、竹澤流。
GLOWを酷評した人物だ。
彼は評論家であると同時に、有名な歌手を幾人も育成した人物で「竹澤の言葉に無駄はない」とまで言われている。
「どうせならこれ見て行きましょうよ~」
と言って吉岡が指差したのは手作り感に溢れる一枚のチラシ。
「あ~…?『聴いて驚け見て惚れろ!俺!…と相棒がGLOWに捧ぐ!!』……体育館で午後1時30分?」
腕時計を見るとすでに午後1時30分になっている。
「ね?ね?行きましょうよ」
「……仕方ねーな。面白くなかったらすぐ帰んぞ」
竹澤ははしゃぐ吉岡を見ながらガシガシと頭を掻いた。
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