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膝から床に崩れた俺を抱え上げる様に、両脇に手を差し込まれてベッドの上に持ち上げられた。
微かな埃が舞い上がり、俺が乗った反動で何冊かの漫画が床に叩き付けられる。
「いつまで泣いてんだ。男だろ、光」
「泣いてる訳じゃない。ちょっと気分が悪いだけだ」
嫌悪感から来る繰り返し発せられる嗚咽に、黒影は呆れた様に溜め息を吐き出して背中を擦ってくれた。
徐々に落ち着いていく気分に、ゆっくりと顔を上げると唇に落ちる柔らかい感触。
一瞬にして持っていかれた俺のファーストキスは、呆気なく終わってしまった。
「い、今、したよな…?」
震える声で問い掛ければ、妖艶に目を細めた黒影は唇を一嘗めする。
「あ?何を?」
「なななななにって決まってるじゃないででですかぁああああっ!!」
「何で敬語?何だ、やっぱ初めてだったか」
初キスが人外とか、オッサンとか、同性とか…俺は一体いくつの禁忌を犯しているんだ。お許し下さい神様。
俺の動揺を傍目に見下ろしながらなんでもない事の様に黒影は続ける。
「あー、悩んでる所悪いんだがな」
言いづらそうに頭を掻いている黒影は、視線を明後日の方向に向けている。
一体何だと言い掛けた所で、俺は黒影が言わんとしている事を察した。というか察してしまった。
「まさか。本気でヤるとか言い始めませんよね黒影さん」
「そのまさかですよ。光さん」
俺は無言で立ち上がると、何事も無かったかの様に部屋を出ようとする。
が、そんな事は到底無理な話で、背後から伸ばされた腕に引かれた。何となく予想していたため、自分に出せる最大の力で抵抗するが体格差を考えれば勝てる訳など微塵もない。いとも簡単にベッドの上に逆戻りする。
更には両手を頭の上に纏めて押さえ付けられ、身動き一つ取れそうもない格好になってしまった。
唯一自由に動く足で、黒影を蹴り付けてみてもビクともしない。一体お前の腹筋はどうなってんだと、文句を吐きたくなる程に微動だにしない。
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